相手に嫌なことを言われた…上司に怒られた…こうしたことがきっかけで、悩みが生まれ始めます。そして、相手のこんな所が嫌だ…上司は私のことが嫌いだ…と悩みは大きくなっていきます。こんなことがあったりしませんか?
悩みにふりまわされているときは、ちょっとしたことが「妄想」を生みます。そして、ありもしない思い込みをつくり、その思い込みがまた「妄想」を呼ぶ、といった悪循環が起きがちです。
あの人は私のことをこう思っているに違いない!
きっと、こう思われてるんだわ…ああ、だんだん腹が立ってきた!
ああ!なんかもうモヤモヤするしムシャクシャする!
まさに悩みの一人相撲状態で、勝手に相手への恨みがふくらんでいき、余計なエネルギーを消費します。なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。この、何とも厄介な暴れ馬、「妄想」という思い込みは、悩みの「実体」を見ようとしないために起きることなのです。
「妄想」にとりつかれることがないように、悩みにしっかりと向き合うことが大切です。思い込みは事実ではありません。悩みにきちんと向き合うことで、思い込みはパッと消えていきます。
では、向き合うとはどういうことでしょうか。ものごとを正しく知るコツは、そのものに「近づく」ことと、「離れる」ことにあります。
悩みもまったく同じです。「悩みに近づく」ことと、「悩みから離れる」ことによって悩みに向き合うこと、これが【近づく・離れる法則】です。
この、お悩み解決シリーズは、順序を得て読んでいただけると、悩みの解決をより分かりやすくしてくれます。 まだご覧になられていない方は、下記のリンクをお読みください。悩みとはから始まり、各話の目次となっております。
悩みから離れてみる
まずは【離れる法則】です。
たとえば、夫婦仲がうまくいっていないときは、試しに思いきって別居してみるというのも一つの手です。親子関係も同じです。
子どもが引きこもり状態にある母親の相談に乗る中で、「ご両親が、その子の生活費だけをおいて、家を出て行くぐらいのつもりになるというのはいかがでしょうか」と助言したことがあります。
もちろん、この方法がいいかどうかは状況によりけりですが。
離れてみることで、その人のありがたみがわかることもあります。物理的に離れることで精神的に近くなるということもあり得るのです。物理的に近くにいることだけが近づくことにはならないのです。
悩みに近づいてみる
そして、【近づく法則】です。
こちらの法則がより重要です。
「バカヤロー!何て単純なミスをするんだ!真剣にやってんのか!」部下のミスを上司がこっぴどく叱っています。確かに、ミスの原因は完全に部下である自分の落ち度。反論できずに、上司の叱責をただただ聞くだけです。
「ああ、もうわかったから、早くこのお説教、終わんないかなあ……」
長い長い上司のお説教が終わり、帰りの電車の中、「あ?、今日は散々だったなあ。でも、部長が責任を負わなきゃなんないんだから、仕方ないよな」「部長はきっと、トンデモない無能な部下を持って今頃嘆いているんだろうなあ…」
つり革に体重をあずけるようにしてうなだれるあなたの頭の中には、「妄想」の渦巻きが、どんどんふくらみます。
「どうせオレなんか、お荷物社員なんだ。必要ないんだ。いっそクビにされたほうが楽だなあ」「明日会えば、またオレを、厄介者扱いした目で見るんじゃないかなあ」「あ?、何か会社に行きたくないなあ」妄想はとどまることを知りません。
その頃、上司は上司で「ちょっと言い過ぎたかなあ。彼なりにがんばってるしなあ。何だかんだ言っても、彼ほど頼りになる社員はいないしなあ」「もとはと言えば、私の指導不足だし…」何て思っているかもしれないのです。
じつは、上司も部下と同じように「きっと、私のことを目の上のたんこぶだって思っているんだろうなあ」何て想像して、お互いが「妄想」をふくらませているかもしれません。
そのときこそ、「近づく」のです。
腫れ物に触るように、上司の目を避けていたら、またまた「妄想」の嵐の吹きまくりで、ますます近寄りがたくなっていきます。
朝一番で、ちょっと勇気を出して、「部長、きのうはご迷惑おかけいたしました。ご指導ありがとうございました。つきましては、今後このように改善案をまとめてみたのですが!」何てタイミングで近寄ったら
「おお、飲み込みが早いじゃないか。いい改善案だね。期待しているよ」と快く言われるかもしれません。
その瞬間に、あなたの「妄想」は、一瞬に吹っ飛んでしまうでしょう。それどころか、「ああ、なんていい上司なんだろう!昨夜は恨んでしまってごめんなさい」「じつは私を思って叱ってくれたんだなあ。ありがたいなあ」と、上司の良いところを発見できて、感謝の気持ちが湧き上がってくるかもしれません。
当然上司だって心が晴れて、いらぬ「妄想」をふくらませることもなくなるでしょう。
だからとにかく、行動です。
悩みや妄想の実体を見る
もっと言うと、かりに、勇気を出して上司に近づいて出した提案に、「何だこれは。まったくお前はわかってないな!きのうも言っただろ!何て駄目なんだ!」などと言われたとしても、本当にそう思っていた、という「実体」が見えたほうがいいのです。
そこからスタートして、では、何が駄目なのか、どうしたらいいのか、とことん話し合ってもいいし、またそうしたほうが自分も腹がすわります。本当は、そう思われていなかったのに、勝手に自分の頭の中で決めつけて、一人悶々と悩んでいるより数段ましです。
「実体」を見るということを、富士山を例にとってみましょう。あなたは、富士山のことを良く知りたいと思っています。
まず、あなたは富士山を遠くから眺めました。すると、「あれが富士山か。大きい山だなあ。きれいだなあ」と富士山を見ることができます。
しかし、遠くから眺めると、青く大きな富士山の姿が見えるけれど、地表はどうなのか、どんな植物が生えているかといった細部は見えません。そこで、細部を見るために、近くまで行ってみることにします。
そうすれば、富士山の地表、花や植物、さらには現地はどんな空気なのか、細部にわたって知ることができます。
逆にはじめから、富士山の山中にいる場合はどうでしょうか。山中にいるときは、そこが本当に富士山の山中なのかどうかさえ、わからないかもしれません。近すぎてわからなくなっているのです。そんなときは、いったん離れてみることも大切です。
離れてみたときに、「ああ、やっぱり今までいたのは富士山だったんだ」とわかります。もし富士山でなければ、「あの山は富士山ではなかった。違う山だった」と答えがハッキリ出ます。
このように遠くから眺めることによっても、理解を深めることができます。【近づく・離れる法則】を使うことの目的は、正確に悩みの「実体」を認識することにあります。
妄想を消すために
感情的な争いをするために悩みに「近づき」、悩みから逃げ出すために「離れる」わけではありません。悩みに近づくのは、冷静に悩みの状況をつかむためです。
悩みから離れるのは、悩みにむやみにふりまわされることなく、正面から悩みに向き合うためです。その場の感情にしたがって、「近づく・離れる」をしては良くありません。
むしろ、あえて感情が訴える方向とは逆の方向に行くほうがいいかもしれません。なげやりにこの法則を使ってはいけないのです。
きちんと悩みに向き合うための行動であるという点では、近づくことも離れることも、本質は同じです。
ただ悩んでいるだけでは、悩みは解決しません。しかし、悩んでいるときは、ただただ悩みのドツボにはまり込んでしまいます。そのとき、悩んでいる状態から抜け出す手がかり、悩みの解決を目指して行動する手がかりが必要です。
悩んでいるときは、じっとしていないことです。じっとしているときに、じっとしていないのが頭です。頭の中で勝手な妄想をふくらませないことです。何より行動先行。そして、その手がかりこそ、【近づく・離れる法則】です。
悩んだら、とりあえず「近づいて・離れて」みる。それが悩み解決の第一歩になります。
妄想しないようにしていく
いきなり悩むことをしないようにというのは難しいかもしれません。ですが、悩んでも実体を見るようにして、妄想にならないようにする。まずはここからチャレンジしてみると良いでしょう。
以前書いたように悩むことは意味があります。しかし妄想を膨らまして、現実ではないかもしれないことに頭を抱えることはありません。
これもすぐには出来ないかも知れませんが、まずは少しづつでも、妄想する時間を減らしていってみてはいかがでしょうか?そうすれば妄想に苦しむ時間は減りますし、段々と妄想しないように行動ができるようになっていくでしょう。
次は、「相手の気持ちが分からない…人を疑う前に相手の気持ちになってみよう」です。